「旅程を他人に押し付けろ! ~行程シャッフルフェスティバル~」を開催しました 

メンバーひとりひとりが大切にしている、旅行オタクとしての気持ち。

 

大切なライバルで、大切な仲間だから――

もっともっと、知りたくなるんだ。

まだ知らない君を、見つけにいきたい!

 

それぞれが大切に作ってきた行程を交換して旅行をすることを決めたオタクたち。

それは、お互いの想いを伝えあうことで――。

 

「ねえ、あなたは誰がどの行程を旅したらいいと思う?」

 
 
 
さる5月4日に、岡山県で「旅程を他人に押し付けろ! ~行程シャッフルフェスティバル~」を開催しましたので、その顛末を記しておこうと思います。
 
まず、「旅程を他人に押し付けろ! ~行程シャッフルフェスティバル~」って何だよという話ですが、平たく言ってしまえば、複数のオタクが日帰り旅行の行程を作成し、シャッフルして自分以外の別のオタクに押し付けて旅行させるという天下の奇祭です。名称はいつの間にか決まっていました。
詳しいレギュレーションのようなものは↓↓↓同行者のブログ↓↓↓に記されているので、そちらをご覧ください(便乗仏教)。
 
 
 

【岡山出発】

この記事では、実際にオタクから行程を受け取って、そのとおりに1日行動してみた部分を中心に振り返っていきたいと思います。

5月4日。6:25、岡山駅前のホテルを出発。始発でこそありませんが、なかなか早起きの行程を引いてしまいました。
同室のオタクは、8時台出発の行程を引き当てたようで、まだ布団に包まっており、若干の羨ましさを感じながら、静かに部屋を後にしました。
この宿に連泊するので、大きな荷物は置いていけます。

行程によって乗車を指示された列車は、岡山駅を6:34に発車します。
なぜか頭の中で6:43出発と錯覚していて、危うく乗り遅れるところで初っ端からヒヤッとしましたが、なんとか間に合いました。
 

【岡山→松江】

岡山6:34発という時刻で察しのついた方もいるかもしれませんが、指定された列車は寝台特急サンライズ出雲出雲市行きです。
昨夜東京を発って700km以上の道のりを走ってきた列車に、ここ岡山から乗り込みます。

岡山でサンライズ出雲サンライズ瀬戸の分割作業が行われるため、発車時刻より少し前に入線します。
前述のとおり、ホームに下りるのがギリギリになってしまったため、すでに夜明けの色を纏った14両の車体は8番線に停まっていました。
切り離しの様子を見ようと集まる人だかりを横目に、指定された12号車へ急ぎます。
朝早くから開いている売店がホームにありましたが、列を成しており、乗り遅れの恐れがあったので朝食の購入は断念せざるを得ませんでした。

用意された「席」は、12号車のノビノビ座席上段です。
座席とは名乗れど椅子はなく、カーペット敷の1畳ほどのスペースが割り当てられているものです
寝台特急なので本来の目的としては横になって一晩かけて長距離を移動するためのものでしょうが、料金は特急指定席料金と変わらないため、空いてさえいれば気軽に短距離でも移動しやすいのも魅力。かつて東京から沼津への移動の際にもお世話になりました。
ただし、寝台とは違い、同じ区画を別の区間で別の人が使用すること有りうるため、寝具などは場合によっては前の人の使用済みのものがそのまま放置されていることもあるのは、こんな利用の仕方の欠点と言えるかもしれません。
私の区画のブランケットも何となく使用したような形跡がありましたが、さほど気になるものではありませんでした。
 
昨晩、まだ行程を交換する前、すでにサンライズ出雲瀬戸のことは参加者のオタクの間で話題になっていました。絶対に1人は朝一番でサンライズに乗せられる、と言われていましたが、よもや自分がそれを本当に引くとは。
岡山を発車してしばらくすると、他のオタクもホテルを出て続々と駅へ向かっている様子がtwitterに投稿され、企画がもう始まってるということを実感しました。

気づいたら列車は倉敷を過ぎ、県北にある川に沿って中国山地に挑もうとしてました。7:14、備中高梁に停車。
せっかく横になれるスペースがあるので眠っておこうと思っていましたが、いざ寝てしまうと降り過ごしてしまうのではないかという不安と、意外と揺れる乗り心地の悪さから睡眠は断念しました。
座り、うつ伏せ、仰向けを5分おきくらいにローテーションして何となく落ち着かない感じも孕みながらうだうだ過ごしていると、新見に停車。
 
サンライズ号を含めて夜行列車には過去に何度か乗ったことがありますが、個人的には朝目覚めたあと、車窓をぼんやりと眺めながら微睡みと覚醒を繰り返すその時間がいちばん好きです。
定期的に運転される夜行列車はもはやサンライズ号のみになってしまいましたが、なかでもこの「出雲」下りについては、終点の出雲市到着は10時近くとなっており、朝の時間をのんびりと過ごすにはこれ以上なくうってつけです。
 
さすがにまともに何も食べていないので腹が減りました。この列車には食堂車も車内販売もないので、カバンの中をまさぐって、いつ買ったかも覚えていないような携行食を口にします。申し訳程度に設置された車内の自販機で買ったコーヒーとともに、ささやかな朝食としました。
 
2度の運転停車を経ながら、列車は米子に向けて快走します。アナウンスが入ったので見てみたら、通路側の窓からは中国地方最高峰たる、大山の雄姿を拝むことができました。

米子、安来と停まり、9:29松江着。ここで降ります。
 

【松江】

ここ松江ではミッションが課されています。今回交換する行程には、道中で例えば〇〇の写真を撮れ!とか●●を食べろ!といったいくつかの簡単なミッションをそれぞれ組み込むことになっており、早くもその1つ目の地点に到着しました。
 

Mission1:「ボートピア松江」で舟券を購入せよ!

※外観の写真をツイート&ハズレ舟券を持ち帰ってくること!

 
これが1つ目のミッションでした。
今回の催しを行うにあたっては、誰が行程を作成したのか分からないようにしようという取り決めがありました。とはいえ行程の組み方である程度誰が作ったかは想像つくものかと思っていましたが、まさかここまで丸出しで来るとは思ってもいませんでした。地方の場外売場に強いオタクである某参加者のしたり顔が目に浮かびます。
 
行程に書かれてしまった以上、拒否権はありません。ミッションを完遂すべく、行動を開始します。
幸いにも「ボートピア松江」は松江駅から徒歩で10分程度の分かりやすい場所にあり、難なく到着することができました。
 
しかしここで問題が。「ボートピア松江」は10時からの営業であり、すぐさま入館して舟券を購入することができません。これの何が困るかといいますと、松江での滞在時間は1時間強ほどしかなく、駅までの移動時間を加味すると、10時からの入館ではボートピア館内に割ける時間は極めて短くなってしまうのです。今回はハズレ舟券を持ち帰る必要があるので、短時間でことを運ばなければなりません。
コンビニで食料を調達しながら時間をつぶし、10時少し前にボートピア入口に立ちます。周囲にはすでに、開館を今か今かと待ちわびている地元有識者の面々が揃い踏みしており、異様な空気感に圧されながらも待つこと数分、入り口が開き、続々と中に入ります。まさか人生で、地方の場外舟券売場に開店凸する日が来るとは思ってもいませんでした。

せっかく舟券を買うのならレースの映像を見たいと思うのが人情というものですが、どうもそれは厳しそうです。というのも、どの会場のどのレースを選んでも、舟券購入からレース発走、そして確定・払戻の間全て滞在してしまうと後の行程に支障を来してしまうことになるのです。仕方がないので、レースは見られないこと前提で、最も近い時間に始まる、唐津競艇の第4レースの券を適当に買って、ボートピアを発つことにしました。ミッションの条件が、「ハズレ舟券」を持ち帰ることなので、万が一当たってアタリ舟券になってしまうと困るため、絶対に重複して当たることのないよう、3連複を2点、計200円購入しました。開店凸からわずか十数分でボートピアを後にするときは、自分何やってるんだ感がすごかったです。
 

【松江→宍道

松江駅に戻り、再び山陰本線を下ります。指示された列車は、10:39発、特急やくも3号、出雲市行き。用意された自由席特急券を片手に乗り込みます。もう次の停車駅で降りるため、乗車時間はわずかに12分。それでも車窓右手に見える宍道湖の景色は慌ただしい行程の中で一時の癒しになりました。

車内で先ほど購入した唐津競艇の結果を調べたところ、無事全て外れていたことが分かりました。
 

宍道→木次】

宍道湖のほとりに近い宍道駅に到着。ここで特急を降車します。ちなみに用意された乗車券は、「岡山→(山陰経由)→倉敷/倉敷→岡山」の連続乗車券なので、倉敷までは途中下車、改札を出ることがができるものでした。せっかくなので一度宍道でも改札を抜けました。
ここは特にミッションが設定されているわけでもない、ただの乗換駅。ここから延びる、中国山地に分け入る国内でも有数のローカル線、木次線に乗ります。

最近このあたりのローカル線は存廃が取りざたされることが多く、今のうちに乗っておこうとオタクが殺到した結果積み残しが発生した、なんて話も聞いていたので、GWということもあり大混雑を警戒していましたが、蓋をを開けてみれば2両編成のディーゼルカーロングシートに問題なく全員座れる程度の混雑で、とりあえず一安心。青春18きっぷのシーズンから外れているからかもしれません。11:19、宍道発。
宍道から木次までの間はローカル線といえども比較的開けている区間であり本数も多く、旅行者に混じってちらほらと地元利用客や帰省客っぽい面々も見受けられます。30分強で木次に到着しました。
 

【木次・三刀屋

木次(きすき)は島根県雲南市の一地区であり、かつては独立して町制を敷いていました。

木次線自体はかつて乗車したことがありましたが、途中駅で下車するのは初めてです。このような機会でなければ降り立つこともなかったかもしれません。失礼ながら、意外と駅前が都会的なことに驚きました。正面には大きめのスーパーマーケットがそびえ、南側へは商店街が伸びています。木次の本当の中心部は、この商店街を辿っていった、もっと南にあるようです。
 

Mission2:「BAOO 三刀屋」で馬券を購入せよ!

※外観の写真をツイート&ハズレ馬券を持ち帰ってくること!


これがこの地で行う2つ目のミッションでした。どうやらプラン作成者は公営競技の場外売場を周遊することを旅行と捉えているようです。そんなバカなと思わなくもないですが、実際にそういう旅行を好んでいる人間に大いに心当たりがあるので、仕方がありません。今回の催しの肝となる部分に、「自分が行ってみたい行程を組んで、それを他人に押し付ける」という点があるので、完全に趣旨には沿っています。
木次線列車の到着を受ける、コミュニティバスが駅前に停車していました。一瞬乗ろうかと迷いましたが、運行経路がよく分からずとんでもないところに連れていかれたらたまらないなと思ったのと、行程上の指示もされていなかったこともあり、見送りました。後で調べたところ、そのバスに乗っていけば素早く目的地近くまで行けたようです。まぁ次の列車まで時間もあるし、天気にも恵まれているので、のんびり歩いて向うことにしました。とはいえ朝食も適当にしか食べていなかったからか腹が減りました。ひとまず駅前の「フーズマーケットホック 雲南店」に吸い込まれます。幸いにもイートインコーナーがあったので何か調達して食べることにしました。せっかくなので何か地のものを食べたいなと思っていた矢先に見つけたのが出雲そば。スーパーで売られているものも、お店で見るような3段の割子を模した容器に入れられていたのには驚きました。(コストかかるだろうに……すごい…)それと目について美味しそうだった穴子寿司とともに昼食になりました。フードコートを転用したと思われるイートインコーナーの片隅のテレビからは、北の国から飛翔体が発射された旨のニュースが流れていました。腹ごしらえも済んだところで、目的地のBAOO三刀屋に向けて出発します。一応今回の行程作成時のレギュレーションとして、「連続で徒歩移動できるのは2kmまで」というものがありました。これは、例えば「峠越えの数十キロを徒歩で移動する」みたいな体力勝負のトンデモ行程を押し付けられないようにしよう、という観点から設定されたものです。今回のこの徒歩はどうなんだ、もしかしたらレギュレーション違反じゃないのか、だとしたら今夜の反省会でとっちめてやる、などと思いながらGoogleで駅からの距離を調べてみたら片道1.9km。どうやらこのあたりかなり巧妙に練られた行程だったようです。駅を出てすぐ斐伊川に突き当たります。ヤマタノオロチ伝説とも関わりがあるといわれる、中国山地を源に宍道湖に注ぐ、島根県でも有数の河川です。このあたりは堤防が桜並木となっており、春には桜の名所となるようです。桜の時期は終わってしまいましたが、上流に目を向けると、川沿いにたくさんの鯉のぼりが揚げられており、新たな季節の訪れを感じさせられます。
木次大橋を渡り、斐伊川の左岸に出ます。家々に目をやると、中国地方でよく見られる、鮮やかな赤褐色の石州瓦を冠したものが多く、青空と新緑と石州瓦のコントラストがキレイでした。

しばらく歩くと三刀屋の町に入ります。木次と三刀屋は歩いた感じ連続している一つの町のように思えますが、21世紀初頭まではそれぞれ別の自治体であったみたいです。町境に位置した松江自動車のインターチェンジ名も「三刀屋木次」と、両方の名前を採っています。
件の松江自動車道の高架をくぐると程なくして場外馬券売り場のBAOO三刀屋が見えてきます。先述のように例の仲間内に公営競技やその場外売場に関心の高いオタクが複数いるので、しばしばこういった場外売場の立地について話題にのぼることがあります。その多くはある程度人口の集中する地域に立地するわけですが、ともすればNIMBY、迷惑施設に分類されかねない特性上、何らかの力が働いて、あって然るような都市部になかったり、もしくは逆になんでこんなところに??と目を疑うような地方部にあったりするのが面白いところです。今回訪問するBAOO三刀屋は、後者の中でも最たるもので、たびたび話題に挙がっていたので私としても聞き覚えがありました。㈱日本レーシングサービスの運営する場外馬券売り場「BAOO」ですが、他の売り場の立地を見てみると、「高崎」「宇部」「博多」「荒尾」「天文館」とそこそこ人口の多い地域に立地しており、「三刀屋」の異常さが際立ちます(次いで鳥取市の東隣・岩美町に立地する「鳥取岩美」もヤバそう)。なお、BAOO三刀屋については、かつては福山競馬場(2013年廃止)の場外売場である「シャトル三刀屋」として存在したのが、BAOOに引き継がれているみたいですね。不本意ながら詳しくなってしまった。
 
着いてみるとBAOO三刀屋は意外にも大きな施設です。もしかしたらパチンコ店か何かの居抜かもしれません。入口に回ってみると「入場制限」と書かれた文字が躍っており、ウソでしょ!?と一瞬思いましたが、何のことはなく、混雑時に入場制限かけるかもという旨の掲示でした。実際は体温だけ測って、すぐに入ることができました。
施設が大きいだけあってか内部もゆったりとしています。およそ20~30人ほどの先客がいましたが、これが多いのか少ないのか判断に困ります。一応この後そこそこ大きいレースがあったため。多いほうなのかもしれません。
ここではボートピア松江のときとは違って、馬券購入からレース観覧、払戻まで滞在するだけの時間は十分にあるため、ネットの情報を参考にそれなりに予想して買ってみました。とはいえ地方は全く分からない(中央が分かるとは言ってない)ことには変わりないので、結局目についた面白そうな馬を適当に選んだだけですが。

 

結果ですが、最初に園田競馬複勝1点500円買ったら当たって1.2倍くらいついたので、気をよくして財布の中に溜まった小銭の一掃も兼ねて名古屋競馬のワイド1点1000円突っ込んだら見事に飛びました。とはいえ無事にハズレ馬券の確保成功です。本当にありがとうございました。
次のレースで取り返してやる!という気持ちが起きなくもないですが、列車の時間が決まっているため、幸か不幸か引き上げざるを得ません。結局40分ほど滞在して、少し余裕をもって14時前にBAOOを後にしました。
木次駅までの道のりはゆっくり歩いて30分弱です。先ほど通った木次大橋を再び渡って駅に向かいます。橋の上から斐伊川を見下ろすと、写真に撮ってしまうと本当に何てことない風景なんですがこれがとにかく鮮やか心地よくて、数分ほど見とれてしまっていました。と同時に覚えた、縁もゆかりもなくつい十数時間ほど前まではここに来ることさえ決まっていなかった自分が、今この景色の中に立っていることが奇妙に思えるような不思議な感覚。この行程を押し付けられなかったら、味わえていなかったことでしょう。

少し早く駅に着いたので、件の駅前スーパーでご当地の牛乳を買って飲んで小休止。その後に乗り込むのは、木次駅14:36発の列車です。
 

【木次→備後落合】

この14:36発の列車は絶対に逃がせられませんでした。というのも、この列車は木次線の終点、備後落合まで行く最終列車であり、乗り遅れると行程が完全に崩壊してしまいます。BAOO三刀屋を少し早めに出たのもこのためでした。


車内は木次まで乗ってきた列車と同様に、1両単行で走るディーゼルカーにはそこそこ乗客はいるものの、座る座席がないほどではありませんでした。ただこれまでの区間と違い、乗客の内訳はほとんど旅行者と思われ、地元の利用客はほんの僅かといった感じ。私はあまり人のいない車両後部でのんびりと過ごしました。

15:40頃、出雲横田駅に到着。ここで15分ほど停車する旨のアナウンスがかかり、小休憩とばかりに私も含め多くの旅行者がホームに降りました。出雲横田は木次以南の木次線沿線では大きな町で、この駅を終点とする列車もあります。駅舎には出雲大社のものを模した大きな注連縄が掛けられており、存在感を放っていました。
15:52に出雲横田を発車。実はこの駅までは後続の列車もありましたが、ここから先備後落合方面に向かう列車は正真正銘の最終列車です。
16:13頃、出雲坂根駅。ここでは4分ほどの停車です。ホームの片隅から湧いているという名水・延命水を飲んでみようかとも思いましたが、いまいち場所が分からなかったのでまたの機会にお預けです。
ここ出雲坂根木次線のハイライトとされます。ここから広島県方面に向けより急峻になる中国山地の勾配に挑むため、進行方向を2度変えながらジグザグに山を登ります。例えば箱根登山鉄道など、急勾配区間を抱える路線でよく用いられる「スイッチバック」という設備ですが、3段に及ぶスイッチバックは全国でも数えるほどしかありません。

出雲坂根を発車する際には、それまで車両最後尾だった自分の座っているほうへ運転手がやってきて、こちらが「前」になります。しばらく坂を登ってまた別の折り返し地点に着いたら、運転手は再びもともといた運転台の方にもどり、再びこちらは「後ろ」になります。2度目の方向転換を終えしばらく走ると、山肌のはるか下のほうにさっきまでいた出雲坂根駅のホームが見え、先人の知恵と工夫で獲得したこの標高差を実感するという寸法です。

スイッチバックを終えたら再び山肌に沿って進みますが、しばらく走ると谷の向こう側に壮大な構造物が見えます。国道314号の「おろちループ」と名付けられたループ橋で、ヤマタノオロチがとぐろを巻くかの如く2重にループして高度を稼いでいます。一般的に道路は鉄道より勾配に強いはずですが、その強さをもってしてもここまで大掛かりな構造部を拵えてようやく越えられるほど、越えるべき山が険しいことが見てとれます。おろちループの中には道の駅も設けられ、観光名所になっているみたいですね。

ところでこの木次線、乗ってると気づきますがめちゃくちゃ遅いです。木次から出雲坂根に関して言えば、40kmほどの距離を2時間弱かけて走っています。理由としては、もちろん出雲横田であったような長時間の停車があるのも一因ですが、やはり単純にスピードが遅いということが主要因かと思われます。一部区間では25㌔という自動車はおろかガチった自転車にすら抜かれそうな速度での走行が余儀なくされるよう。この極端に遅い制限速度は、木次線に限らずJR西日本管内のローカル線ではわりとよく設定されており、線路に異常があった場合に速やかに停まれるようにしているという一応の合理性はある施策みたいですが、コストカットもここに極まれりという様相です。試しに木次から備後落合までを鉄道と自動車それぞれで移動した時間をGoogleで検索したりしてみましたが、鉄道利用は自動車利用の倍の時間を要すみたいでした。3段スイッチバックと2重ループがちょうど好対照になっていますが、戦前に作られ原則線形はそのままの鉄道と平成になってから改良が完了した道路を同じ土俵に立たせること自体が、そもそも酷な話なのかもしれません。とはいえ、私らのように人生のうちで何度かアトラクション感覚で乗るのならまだしも、地元の人が公共交通として日常利用するにはあまりにも厳しいものがあるよなぁと思わざるを得ませんでした。
そんなことを思っている間にも木次線はゆっくりと着実にその歩を進め、国境の峠を越えて17:01、広島県備後落合駅に到着しました。
 

【備後落合→塩町】

備後落合は3方向へ線路が伸びる結節点ですが、そのいずれも有数のローカル線であり、周囲には人家もまばらで、本当に結節の役割だけを担っているような駅です。かつては本当に鉄道の一大拠点として賑わっていたとのことですが今は昔。一日に数回ある乗り換えのタイミングににわかに人が行き交うのみです。

この時がまさにそうで、木次線列車から降りた人々は17:15発の芸備線三次方面の列車へ乗り換えるようで、私も例外ではありません。

乗り換えた三次行き列車は今まで乗っていた木次線のものと型は同じようですが、車内の一部がボックスシートになっていました。とはいえ乗り込んだのが遅くめぼしい席は大体先客に取られてしまっていたため、例によって大人しく車両後部のロングシートに収まります。
備後落合を出た列車は、しばらくの間例の極端に遅い制限速度の下走行します。しかもそれが結構な距離に及んでいたので、大丈夫かよ…と心配すら覚えました。
速度を取り戻すころ、さすがに朝から動き続けていることもあり、急に眠気が襲ってきていつしか夢の中へ……。結局目覚めたのは降りる予定の駅の少し前で、危うく寝過ごすところでした。仮にこのまま終点まで行ってしまっても行程に復帰することはできるはずですが、ミッションを1つ取りこぼしてしまうことになります。
 

【塩町】

Mission3:「いまちゃんお好み焼き」で広島風お好み焼きを堪能せよ!

※写真に収めてツイートすること!

 

塩町に18:23着。ここで下車します。さて、上記のようにミッションが設定されていますが、実はこれ、相当難しいミッションです。というのも、前日にホームページを見て知ったのですが、「いまちゃん」というお店、昨今の情勢によりラストオーダー18:30となっており、下車から7分しか余裕がありません。Googleマップによると駅から店舗までは徒歩で5分と出るので不可能ではないと思いますが、ちょっとでも道を間違えたりしたらアウトでしょう。道順を頭の中に叩き込み、最善を尽くすしかありません。
乗車券を運転手に提示し、開扉直後に素早く下車。ホームから駅舎へ向かうのに階段を介す必要があったのは想定外でしたが、それ以外は事前にシミュレートした通りに、やや早歩きで最短ルートを辿ります。店舗に着いたのは18:28と2分前でした。店内にはほとんど客の姿がなく、一瞬万事休すかと覚悟しましたが、「まだ間に合いますか!?!?!?!?!」と聞いたところOKでしたので、ほっと一安心。

 

メニューはいろいろありましたが、迷っている時間ももったいないので、王道を征く人気No.1の「肉玉そば」をオーダー。広島風お好み焼きを食べるのはかなり久しぶりなので楽しみです。
10分ほど待って運ばれてきたお好み焼きは、まるでクレープのように折りたたまれていました。このお店のスタイルなのでしょうか。折りたたまれた生地の中にはソースの絡んだ焼きそばがたっぷり包まれており、ひじょうに大満足の一品でした。ボリュームが結構あったので19時の閉店までに食べきれるかと一瞬気をもみましたが、あっという間に平らげてしまいました。ごちそうさまでした。
「いまちゃん」を後にして、元来た道を辿り駅に戻ります。西日本ということもあり5月上旬でもだいぶ日没が遅かったですが、すでに19時を回っているということもあり、さすがに夜の帳が下りつつありました。

 

【塩町→倉敷】

塩町19:17発の福塩線府中行き列車を待ちます。この列車も府中までの最終列車です。
ちょうど列車がホームに入ってくるころ、地平線に彼方に日が没し、美しいグラデーションを見ることができました。誰もいない中国山地の山間の駅で迎えるブルーアワー。今回の行程で、最も印象に残った瞬間でした。

福塩線は、その名の通り福山と塩町を結ぶ路線です。この路線で、久しぶりの瀬戸内側に戻ります。車内には10人弱ほど乗客が乗っていましたが、いずれも三次市街から帰宅する客なのでしょう、途中駅であらかた降りてしまい、しまいにいは乗客は私一人になりました。
もうすでに日はどっぷりと暮れ、山間を縫う線路の周りからは灯りもほとんど消え、闇夜を割いて列車は走ります。誰もいない車内から真っ暗な車窓を眺めていると、本当にこのまま府中へ出るができるのだろうか、いまどこを走っているんだろうか、いや本当に走っているんだろうか、などと荒唐無稽な不安感が過ったりもしますが、駅に停まるたび、現実に引き戻されます。
結局乗客は自分だけのまま、列車は終点の府中に到着しました。府中は福塩線としては路線の途中の駅ですが、この駅を境に路線の性格が分かれるため、運行系統が分断されており乗り換えを要します。

乗り換えた福山行きの列車は4両編成で、これまで乗ってきたローカル線と比較すると長大編成といっても差し支えない規模ですが、軽く立ち客が出るほど混雑していました。GWの21時近い時間に府中から福山へ向かう流動とは、一体どんな需要なんですかね。
府中→福山なんてすぐ着く距離だと思い込んでいたら案外長く、50分弱かけて福山へ到着。ついに山陰側から瀬戸内側に帰ってきました。

福山から乗るのは新幹線。21:52発の新大阪行きこだま868号です。駅のアナウンスを聞いていると、8両編成で1号車と8号車の端には出入り口がないので注意しろとの旨の放送が。これはもしや……と勘づいたところに入線してきたのは、流線形にライトグレーの、500系新幹線。幼いころ憧れたあの車両にまさかここで乗ることができるとは思ってもみませんでした。以前1度だけ乗ったことはあるんですが、その時はハローキティ新幹線として走っていたものだったので、元来の装いをした車両に乗るのは初めてです。乗車時間は極めて短いですが、楽しみましょう。
ところで、このまま乗っていれば僅か2駅で岡山に着けるのですが、どいうわけか私の手元には次の停車駅、新倉敷まで特急券しかありませんがそれは……

はい、行程通り、わずか11分の乗車を経て新倉敷で降ります……。しかもここでの乗り換えは新幹線から在来線へのものなのに僅か2分しかありません。今回の行程の上で、おそらく松江や塩町以上にタイトです。終電ではないので逃したら帰れなくなるというわけではありませんが、帰着が遅くなることは確実なのでできればここは乗り換え成功たいところ。
階段に近そうな車両のデッキに陣取って、開扉と同時に飛び出し、素早く階段を降ります。乗り換え改札を抜け、山陽本線ホームへ。幸いにも新倉敷は新幹線と在来線が大きく離れたような駅ではないので、なんとか間に合わせることができました。乗った列車は岡山ゆきなので、このまま乗っていれば岡山まで行けるわけなんですが、わざわざ乗り換え芸をさせている以上、そんな素直に帰れるはずもなく……
22:15。降り立ったのは倉敷。もう岡山は目と鼻の先ですが、なぜこんなところで降ろされるのでしょう…?もう時刻は22時を回っており、常識的に考えて、まさかこんな時間かにミッションが用意されていることなどあり得ないと思いますが……???
 

【倉敷】

Mission4:「倉敷市民会館」でLiella!に思いを馳せろ!

※写真に収めて夏草ツイートすること!

 

はい、ですよね(諦観)。用語の解説に移ります。
 
『Liella!』(リエラ):
メディアミックス作品群『ラブライブ!スーパースター!!』に登場する架空の9人組女性スクールアイドルグループ、およびそのキャラクターの声を演じる声優達による実在の9人組女性声優ユニットの名称である。
 
『夏草』(なつくさ):
あるできごとのあった現場のようすが、すっかり変わってしまっていることのたとえ。芭蕉(1644-1694)が、公演が終わりすっかり人の気配のなくなったライブ会場を訪れ、「女性の声優一睡の中にして、オタクの跡は一里こなたに有。物販が跡は田野に成て、会場のみ形を残す。(中略)『国破れて山河あり、城春にして草青みたり』と笠打敷て時のうつるまで泪を落し待りぬ。  夏草や 兵共が 夢の跡 」と詠んだことに由来する。

 

 

 

とまぁつまり、要約するとライブ会場行って写真撮ってなんかそれっぽいしみじみとした感じでツイートしたらいいんですよね。こんな時間から。

ちなみに上記の『夏草』の解説は普通に大嘘の上に全世界で5人くらいしか使っていない用語なので秒で忘れてください。『Liella!』のほうは一応Wikipediaから引っ張て来た本物?です。TVアニメ第2期が7月17日午後7時よりNHK Eテレにて放送予定なので、ぜひ覚えて帰ってくださいね(媚びを売る)。

www.lovelive-anime.jp

 

閑話休題、「倉敷市民会館」は駅から結構距離があります。行程表には「タクシーを利用してもOK」と記載があり、御丁寧に封筒に現金も入っていたので、ありがたくご厚意に預かろうと思います。

タクシー乗り場がよく分からず無駄に駅前をぐるぐるしてしましましたが、何とかタクシーを拾い、市民会館へ直行。

 

ものの5分ほどで、会場に着きました。写真を撮って、それっぽいツイートをして、ミッション完了!これでこの行程の全ミッションを終えました。感無量です。本来我々の仲間内で行われている「夏草」ツイートは、昼間の喧騒と夜間の静寂を対比させてしみじみとした寂寥感を表現するものなんで、2021年11月に行われた「ラブライブ!スーパースター!! Liella! First LoveLive! Tour ~Starlines~ 岡山公演」に参加していない人間が行う「夏草」に意味はあるのかという疑問が湧きかけますが、この際いいでしょう。

 

【倉敷→岡山】

とはいえこれでほぼ行程は消化しました。心地よい達成感とともに、倉敷駅に戻りましょう。予定の列車まで少し時間があったので徒歩で向かいます。途中ライトアップされた夜の美観地区を通りました。またこのあたりに泊まってゆっくり散策したいなぁとか、地区美感じるんでしたよねとか思いながら、帰路につきます。

 

倉敷22:53発、行程通りの列車に乗って岡山駅23:10に到着しました。徒歩数分のホテルに戻って、これでホントのホントに行程、完全に完了です。お疲れさまでした。

総移動距離およそ400km(Googleタイムラインベース)、総活動時間およそ14時間半のなかなかハードな行程でしたが、驚くべきはこんな時間なのにホテルに帰ってきたのは自分が最後ではなく、まだ行動中の参加者がいたみたいです。わけがわからないよ。

 

 

 

【おわりに】

全員ホテルに帰ってきた後には反省会が執り行われました。これは、各自の行程を振り
返りながら発表し、行程作成者の感想や意図とかも聞きながらやいのやいの言い合う会です。建前上、行程は誰が作成したのかをブラインド状態で行うことになっていたため、ここで初めて自分の作成した行程への言及ができます。それぞれ自分の実行した行程を毀誉褒貶したり、作成者がそれに反駁したりと、議論は尽きず、午前3時くらいまでやっていたかと思います。
私の旅行した行程について分かったことを記しておきます。作成者はやはり件の場外馬券売り場のオタクでした。意外だったのが、ぱっと見ヤバい行程に見えて実のところ実行者のことを考え抜いた、ホスピタリティあふれるものだったということです。確かに思い返せば、体力的にキツかったり逆に暇を持て余したりすることはほとんどありませんでした。これは積極的に特急列車を使ったり、何もない場所で長時間待つことのないよう、時間を使う場所を調整していたとのことの賜物のようです(最後の倉敷市民会館は言い逃れできないと思うんですがそれは)。なるほどなぁと深く感心しました。ちなみにお好み焼き「いまちゃん」のラストオーダーRTAが発生したのは、作成者も想定外だったとのこと。
今回集まった4人は、何度も旅行を共にしている間柄だったので、正直行程の組み方はある程度似通ってきそうな気がしてたんですが、蓋を開けたらやっぱり個性が出るものなんですね。ともかく、自分ではなかなか行こうと思わない場所に行けたり、思いもよらない行程の組み方に出会ったりと、すごく新鮮な驚きにあふれた催しになったので、やった意義はあったなぁと思います。第2回の話もちらほら挙がったので、もしかしたらまた開催するかも……?もう1度やりたいぜ。
まぁただ思うのは今回の催しですが、他の参加者もブログでも述べられていますが、金額や活動時間にあまり縛りを設けなかったので、結果的に特殊な訓練を受けたオタクにしか実行できないような行程が複数生まれてしまった側面があります。結果的に私たちは全員帰ってこれているので無問題ですが、参加者層によってはレギュレーションでうまく調整する必要があるかもしれません。あと今回は、参加者が山陰・瀬戸内・九州・四国と散らばったのに奇跡的に全員天気に恵まれたのが本当に運がよかったなと思います。
ちなみに私の作成した行程についても、実行者から概ね好評を得られたのでほっと一安心しました。強いて反省点として挙げるなら乗り物酔いへの配慮が甘かったことと、(他人の行程が全く分からない特性上仕方ないことですが)最遠で大分県まで行く行程があった中で、ちょっと小さくまとまりすぎたかなという点でしょうか。詳細は実行者がブログにまとめてくれているので、ぜひ読んでみてください。あとはまぁTwitterハッシュタグ「#行程シャッフルフェスティバル」で当日の生の声なんかも残っているかと思うのでそちらもどうぞ。
 
↓↓↓私の作成した行程を実行した人↓↓↓
 
↓↓↓私の実行した行程を作成した人↓↓↓
 
 
 
ありがとうございました。